国税庁「令和6年度 統計年報」によると、令和6年度に提出された消費税の納税申告は4,304,438件でした。その内訳は、仕入れで実際に払った税額を使う一般申告が2,014,180件、簡易課税による簡易申告が1,241,696件、2割特例が1,048,562件です。
つまり、簡易課税と2割特例を合わせた2,290,258件、納税申告の53.2%は、仕入れで実際にいくら払ったかを申告に使っていません。 個人事業者に限ると、2,071,808件のうち1,544,202件、**74.5%**がこちらです。
この53.2%の分母は「納税申告」です。 同じ表には、納税申告とは別に還付申告が306,017件(うち個人事業者91,896件)並んでいます。還付は仕入れの実額を引いて初めて出るものなので、この306,017件はすべて本則課税です。両方を足した4,610,455件を分母に取り直すと、簡易課税と2割特例は49.7%、個人事業者では**71.4%**になります。半数を超えるかどうかは、どちらを分母に置くかで入れ替わります。
食料品の消費税が1%に下がるとき、この違いが金額になって表に出ます。そして、いま306,017件しかない還付申告の側へ、食品を売る事業者の多くが移ることになります。
結論
引き下げで変わるのは、売上側の税率だけです。仕入れで払う消費税の税率は変わりません。肥料も燃料も包装資材も運賃も、これまでどおりです。
すると、食料品を売る事業者の多くは、納める側から戻してもらう側へ立場が変わります。 預かる税額より払う税額のほうが大きくなるからです。
ところが、戻してもらえるのは本則課税で申告している事業者だけです。簡易課税も、売上の税額に決まった割合を掛けるだけの特例も、免税事業者も、仕入れで払った消費税を取り戻す道がありません。 納める額は下がりますが、それは「取り戻せている」のとは違います。
そしてこの選択は、通常なら課税期間が始まる前に済ませておかなければなりません。 今回はそれが物理的に間に合わないため、大綱(案)は届出の期限を課税期間の末日まで後ろへ動かし、簡易課税をやめるときの継続適用の縛りも外すとしています。
したがって、事業者がすることはレジの改修だけではありません。期限までに、どちらの方式で申告するかを決めることが入ります。しかも今回に限っては、その課税期間が終わってから決められます。
計算の前提
| 項目 | 置いた条件 |
|---|---|
| 引き下げの期間 | 2027年4月1日から2029年3月31日までの2年間 |
| 特例税率 | 消費税0.78%+地方消費税で合計1% |
| 現行の軽減税率 | 消費税6.24%+地方消費税で合計8% |
| 標準税率 | 消費税7.8%+地方消費税で合計10% |
| 設例の事業者 | 個人事業者(課税期間は1月1日から12月31日)。中間申告の設例だけ3月決算の法人と並べる |
| 設例の売上 | すべて軽減税率の対象となっている飲食料品。月ごとに均等とした |
| 設例の仕入れ | すべて10%対象(肥料・燃料・資材・包装・運賃など)。原材料として飲食料品を仕入れる事業者は、その分の仕入税額も1%になるので、還付はこれより小さくなる |
| 仕入れの額の決め方 | みなし仕入率どおりの事業者として逆算した(下記) |
| 法律の状況 | 2026年9月14日時点で根拠となる法律は成立していない。大綱(案)の段階(その後2026年9月15日に閣議決定された。下の追記を参照。本文で「大綱(案)」と書いているのは9月11日版のことで、引用箇所は閣議決定版と同じ文言) |
設例の金額は架空です。 ただし課税仕入れの額は任意に置いたものではありません。消費税法第37条第1項第1号は、みなし仕入率を「当該事業における課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合を勘案して政令で定める率」と定めています。つまりみなし仕入率は、国が「その業種では普通このくらい」と決めた、売上税額に対する仕入税額の割合です。設例では、この率どおりの事業者を置きました。
そのため、この設例では現行の8%のもとで本則課税と簡易課税の納付税額が一致します。 みなし仕入率はもともとそうなるように作られた率だからです。1%になると、その前提が壊れます。
半数以上の事業者は、仕入れの実額を使っていない
簡易課税制度は、消費税法第37条第1項により、基準期間における課税売上高が5,000万円以下の課税期間について選べます。選ぶと、売上げに係る消費税額にみなし仕入率を掛けた金額を仕入控除税額とします。仕入れで実際にいくら払ったかは、計算式に入りません。
みなし仕入率は消費税法施行令第57条で定められています。
| 事業区分 | みなし仕入率 | 主な事業 |
|---|---|---|
| 第1種事業 | 90% | 卸売業 |
| 第2種事業 | 80% | 小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) |
| 第3種事業 | 70% | 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡を除く)、鉱業、建設業、製造業ほか |
| 第4種事業 | 60% | 上記・下記以外(飲食店業など) |
| 第5種事業 | 50% | 運輸通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業を除く) |
| 第6種事業 | 40% | 不動産業 |
食料品をつくる農林漁業者と、食料品の小売店は第2種事業です。 施行令第57条第5項第2号は、第2種事業を「イ 小売業/ロ 農業(法別表第一第一号に掲げる飲食料品の譲渡を行う部分に限る。)/ハ 林業(同)/ニ 漁業(同)」と定めています。食品の製造業は第3種事業です。
「2割特例」は、正式には「適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置」といいます(国税庁No.6505)。免税事業者がインボイス発行事業者になったことで課税事業者になった場合の経過措置で、納付税額を売上税額の2割にできます。これも仕入れの実額を使いません。
ただし2割特例は、引き下げが始まる前に終わります
上の統計で1,048,562件を占めている2割特例は、1%になるころには個人事業者の手元に残っていません。 国税庁のインボイスQ&A問114は、適用できる期間をこう書いています。
令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、免税事業者(免税事業者が「課税選択届出書」の提出により課税事業者となった場合を含みます。)が適格請求書発行事業者となる場合には、納付税額の計算において控除する金額を、…残額に8割を乗じた額(以下「特別控除税額」といいます。)とすることができる経過措置(以下「2割特例」といいます。)が設けられています(28年改正法附則51の2①②)。
区切りは課税期間です。暦年が課税期間の個人事業者なら、令和8年9月30日を含む課税期間は令和8年分なので、令和8年分が最後になります。国税庁も別の問で「令和8年をもって2割特例を適用することができなくなるため」と書いています(問117-3)。いま2割特例で申告している個人事業者は、令和9年分からは一般課税・簡易課税・3割特例のどれかを選び直すことになります。
法人は決算期によります。令和8年9月30日を含む事業年度が令和9年4月1日より後まで続く法人(たとえば8月決算)では、2割特例の課税期間と1%の期間が重なります。大綱(案)が2割特例にも触れているのは、この重なりがあるためです。
その令和9年・令和10年の穴を埋めるものとして、令和8年度税制改正で3割特例が設けられました。大綱の93ページは、こう書いています。
個人事業者である適格請求書発行事業者の令和9年及び令和10 年に含まれる各課税期間(免税事業者が適格請求書発行事業者となったこと又は課税事業者選択届出書を提出したことにより事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる課税期間に限る。)については、その課税期間における課税標準額に対する消費税額から控除する金額を、その課税標準額に対する消費税額に7割を乗じた額とすることにより、納付税額をその課税標準額に対する消費税額の3割とすることができることとする。
こちらは大綱の段階では終わっておらず、すでに成立した制度です。国税庁は「令和8年度税制改正特集」で、要件を3つ挙げています。
- 個人事業者であること
- 基準期間(適用を受ける年の2年前)の課税売上高が1,000万円以下であること
- インボイス発行事業者の登録を受けていること
適用されるのは令和9年分と令和10年分です。食料品が1%になるのは令和9年4月1日から令和11年3月31日までなので、両端で3か月ずつずれます。 令和9年1月から3月まではまだ8%、令和11年1月から3月までは1%なのに3割特例の年ではありません。
売上の税率だけが下がる
設例で見ます。個人の農業者で、税抜売上15,000,000円がすべて飲食料品、課税仕入れは9,600,000円(税抜売上の64%)で、すべて10%対象とします。
比べる年に注意が必要です。1%になるのは令和9年4月1日からで、個人事業者の課税期間は暦年です。つまり令和9年は、1月から3月までが8%、4月から12月までが1%の混ざった年で、課税期間の全部が1%になる年は令和10年しかありません。まず、その令和10年で見ます。
| 令和8年(8%) | 令和10年(1%) | |
|---|---|---|
| 売上で預かる消費税 | 1,200,000円 | 150,000円 |
| 仕入れで払う消費税 | 960,000円 | 960,000円 |
| 差し引き | 240,000円を納める | 810,000円が戻る |
下の行が動いていないことが、この記事のすべてです。 肥料も燃料も資材も10%のままなので、払う側は1円も変わりません。変わるのは上の行だけです。
本則課税なら、この差し引きがそのまま結果になります。消費税法第45条第1項第5号は、課税標準額に対する消費税額から控除する税額を引いて「なお不足額があるときは、当該不足額」を申告書に記載すると定めており、その不足額が還付されます。
簡易課税のままだと、戻る分が消える
同じ事業者が簡易課税のままだとどうなるか。大綱(案)は、1%の対象になる売上について次の特例を置くとしています。
簡易課税制度において可能な最大限の対応として、簡易課税制度の適用を受ける事業者が特例対象課税資産の譲渡を行った場合における特例対象課税資産の譲渡に対応する仕入控除税額については、業種区分にかかわらず、当該特例対象課税資産の譲渡に係る消費税額(いわゆる売上税額)と同額とする特例を設ける。また、適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(いわゆる2割特例・3割特例)の適用を受ける場合についても同様とする。
売上税額と同額を引くので、令和10年の納付税額は0円になります。この特例がなければ、第2種事業のみなし仕入率80%で計算して150,000円の20%、つまり30,000円を納めることになっていました。
ただし、0円になることと、払った消費税が戻ることは違います。
| 令和8年(8%) | 令和10年(1%)本則課税 | 令和10年(1%)簡易課税 | |
|---|---|---|---|
| 売上で預かった消費税から回収 | 960,000 | 150,000 | 150,000 |
| 還付として国から回収 | 0 | 810,000 | 0 |
| 合計 | 960,000 | 960,000 | 150,000 |
3本目だけが低いことが、この図の全部です。仕入れで払った960,000円のうち、売上から回収できるのは150,000円しかありません。残りの810,000円は、本則課税に移った2本目だけが還付として取り戻しています。1本目と2本目は、回収の道筋が違うだけで高さは同じです。
| 令和8年(8%) | 令和10年(1%)本則課税 | 令和10年(1%)簡易課税 | |
|---|---|---|---|
| 売上で預かった消費税から回収 | 960,000円 | 150,000円 | 150,000円 |
| 還付として国から回収 | 0円 | 810,000円 | 0円 |
| 合計 | 960,000円 | 960,000円 | 150,000円 |
本則課税に移るかどうかで、この設例では810,000円の差が出ます。
令和9年は、1月から3月までの8%が残ります
同じ事業者の令和9年を、月ごとに均等な売上として計算すると、こうなります。1月から3月までの売上税額は 15,000,000円 × 3/12 × 8% = 300,000円、4月から12月までは 15,000,000円 × 9/12 × 1% = 112,500円で、合わせて412,500円です。仕入税額は960,000円のまま動きません。
| 本則課税 | 簡易課税(大綱(案)の特例あり) | |
|---|---|---|
| 令和9年の結果 | 547,500円が戻る | 60,000円を納める |
簡易課税で0円にならないのは、特例の対象が「令和9年4月1日以後に行う飲食料品の譲渡」だからです。大綱(案)は注で「上記特例を適用する場合には、特例対象課税資産の譲渡以外の課税資産の譲渡等…に係る売上税額に基づき、現行の簡易課税制度等を適用する」としています。1月から3月までの売上はまだ軽減8%で、特例の対象ではありません。その300,000円に第2種事業のみなし仕入率80%を当てた残り、60,000円が納付として残ります。
免税事業者には、還付という選択肢そのものがない
免税事業者は消費税を納めません。その代わり、仕入税額控除も還付もありません。消費税法第30条第1項は、仕入税額控除の主語を「事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)」と書いています。括弧書きで外されています。
設例をもう一つ。個人の農業者で、税抜売上8,000,000円がすべて飲食料品、課税仕入れは5,120,000円で、すべて10%対象とします。
| 令和8年(8%) | 令和10年(1%) | |
|---|---|---|
| 仕入れで払う消費税 | 512,000円 | 512,000円 |
| 売上に消費税として乗る額 | 640,000円 | 80,000円 |
| 差し引き | 128,000円が手元に残る | 432,000円が足りない |
こちらも、課税期間の全部が1%になる令和10年で比べています。令和9年は1月から3月までが8%なので、売上に乗る額は220,000円、足りない額は292,000円です。
免税事業者は消費税を「預かって納める」立場ではないので、この表は税抜の値付けを変えずに税率だけが下がった場合の受取額の差です。値段をどうするかは別の判断ですが、税率が下がった分を価格に残せなければ、この差がそのまま残ります。8%と1%の差は560,000円です。大綱(案)は、この構造をはっきり書いています。
特に本則課税に移行することが困難な簡易課税事業者・免税事業者である農林漁業者については、第一次産品の生産・販売を担う特殊性に鑑み、売上げから回収できない仕入税額が大きくなることで経営継続が困難とならないよう、個別の売上高を踏まえた金額を給付する仕組みを導入することとし、現場の納得感のある対応に万全を期す。
「売上げから回収できない仕入税額」という言い方が、上の表の一番下の行にあたります。
この事業者が課税事業者を選んで本則課税で申告すれば、432,000円が還付されます。ただし、課税事業者を選ぶと2年間は免税事業者に戻れません。 消費税法第9条第6項は、課税事業者選択届出書を提出した事業者は「事業を廃止した場合を除き、同項に規定する翌課税期間の初日から二年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ」やめる旨の届出書を提出できないと定めています。個人事業者が令和9年分から課税事業者を選ぶ場合、不適用届出書を出せるのは令和10年1月1日以後なので、令和10年中に出せば令和11年分から免税に戻れます。 ただし1%が終わるのは令和11年3月31日なので、令和11年1月から3月までの3か月は、まだ1%なのに免税事業者に戻っていることになります。この3か月分の還付は受けられません。戻る年を1年遅らせるかどうかは、その3か月の還付と、令和11年4月以降に8%で納める額との比較になります。
なお、この期間に100万円以上の機械などを買って仕入税額控除を受けると、3年間に延びます(消費税法第9条第7項)。
通常は、年が始まる前に決めておかなければならない
ここまでの選択には期限があります。そしてその期限は、普通なら年が始まる前です。
| したいこと | 出す書類 | 通常の期限 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 免税事業者が課税事業者になる | 消費税課税事業者選択届出書 | 適用を受けたい課税期間の初日の前日まで | 消費税法第9条第4項 |
| 簡易課税をやめて本則課税に戻る | 消費税簡易課税制度選択不適用届出書 | 同上 | 消費税法第37条第5項・第7項 |
消費税法第9条第4項は、届出書を提出した場合には「当該提出をした日の属する課税期間の翌課税期間…以後の課税期間」について免税の規定を適用しない、と定めています。出した年からではなく、次の年からです。
簡易課税をやめる側の期限も、条文の形は同じです。消費税法第37条第7項は、不適用届出書の提出があったときは「その提出があつた日の属する課税期間の末日の翌日以後は、第一項の規定による届出は、その効力を失う」と定めています。やめたい年の前年のうちに出しておかなければ、その年はまだ簡易課税のままです。
さらに簡易課税には、いわゆる2年縛りがあります。消費税法第37条第6項は、簡易課税制度選択届出書を提出した事業者は「事業を廃止した場合を除き、同項に規定する翌課税期間の初日から二年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ」やめる旨の届出書を提出できない、と定めています。
つまり通常どおりなら、個人事業者が令和9年分から本則課税で申告したければ、令和8年12月31日までに届出書を出しておく必要がありました。2026年9月14日時点で法律すら成立していない引き下げについて、その年末までに決めろ、ということになります。
大綱(案)は、その期限を年末まで動かします
大綱(案)は、この問題をそのまま書いています。
令和9年4月1日の属する課税期間が既に開始している事業者や簡易課税制度の適用を選択して2年が経過していない事業者は、飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げを受けて、本則課税に移行し、還付申告を行う必要があっても、現行制度上は当該移行ができないこととなる。
そのうえで、次の2つを置くとしています。
(1)飲食料品の譲渡を行う事業者が、令和9年4月1日の属する課税期間から課税事業者となることを選択する場合において、その課税期間の末日までに課税事業者選択届出書を提出したときは、当該課税期間の初日の前日に提出したものとみなす。
(2)簡易課税制度選択届出書を提出している飲食料品の譲渡を行う事業者が、令和9年4月1日の属する課税期間について簡易課税制度の適用をやめようとする場合において、その課税期間の末日までに簡易課税制度選択不適用届出書を提出したときは、当該課税期間の初日の前日に提出したものとみなすほか、簡易課税制度を選択した場合の2年間の継続適用要件(簡易課税制度に関するいわゆる2年縛り)は適用しないこととする。
個人事業者の課税期間は1月1日から12月31日です(国税庁No.6137)。したがって令和9年12月31日までに出せばよいことになります。
| 通常 | 大綱(案)のとおりになった場合 | |
|---|---|---|
| 個人事業者が令和9年分から本則課税にする期限 | 令和8年12月31日 | 令和9年12月31日 |
| 判断に使える情報 | 引き下げの前 | 1%になってからの9か月分の実績 |
| 簡易課税の2年縛り | かかる | かからない |
1年間の数字を見てから、簡易課税をやめるかどうかを決められる。 通常の期限では、まだ何も起きていない時点で決めるしかありませんでした。
ただし「年が終わってから選べるのは前例がない」とまでは言えません。国税庁は、2割特例・3割特例の適用を受けた事業者がその翌課税期間から簡易課税に移る場合について、「その適用を受けようとする課税期間の申告期限まで」に届出書を出せばよいとしています。個人事業者なら翌年3月31日までで、年が終わった後どころか申告のときまで待てます。大綱(案)が新しいのは、簡易課税を「やめる」側にも、同じように後から決める余地を作ろうとしている点です。
なお、これは「出さなくても自動的に本則課税になる」という話ではありません。期限が延びただけで、出さなければ簡易課税のままです。
中間申告の特例は、4月以降に始まる期間だけ
もうひとつ、放っておくと現金が出ていく論点があります。
中間申告が必要なのは、直前の課税期間の確定消費税額が48万円を超える事業者です。この48万円に地方消費税額は含みません(国税庁No.6609)。回数は消費税法第42条で決まります。
| 直前の課税期間の確定消費税額 | 中間申告の回数 |
|---|---|
| 48万円以下 | 原則不要 |
| 48万円超400万円以下 | 年1回 |
| 400万円超4,800万円以下 | 年3回 |
| 4,800万円超 | 年11回 |
中間申告の税額は、直前の課税期間の実績で決まります。 引き下げの前の年は8%なので、その実績で計算すると、1%の年には多すぎる額が立ちます。
大綱(案)は、これを計算し直せるとしています。
令和9年4月1日以後に開始する中間申告対象期間に係る中間申告書に記載すべき中間申告税額については、直前の課税期間において行われた飲食料品の譲渡及び飲食料品の譲渡に係る課税仕入れ並びに保税地域から引き取られる飲食料品について特例税率が適用されたものとした場合の消費税額に基づき計算した中間申告税額(当該中間申告税額がない場合には、零。)を記載できることとする。
読むべきは「令和9年4月1日以後に開始する中間申告対象期間」という限定です。 納める日ではなく、その期間がいつ始まるかで決まります。
設例をもう一つ置きます。税抜売上50,000,000円がすべて飲食料品、課税仕入れは32,000,000円で、すべて10%対象の事業者です。引き下げの前の課税期間(全期間が8%)の納付税額は800,000円で、そのうち国税は624,000円です。48万円超400万円以下なので、次の課税期間は年1回の中間申告になります。中間納付税額は400,000円です。
この事業者が個人か、3月決算の法人かで、結果が分かれます。
| 個人事業者(暦年) | 3月決算の法人 | |
|---|---|---|
| 中間申告対象期間 | 令和9年1月1日〜6月30日 | 令和9年4月1日〜9月30日 |
| 期間が始まる日 | 令和9年1月1日 | 令和9年4月1日 |
| 大綱(案)の特例 | 対象外(4月1日より前に始まる) | 対象 |
| 中間納付税額 | 400,000円 | 零と記載できる |
| 納付期限 | 令和9年8月31日 | 令和9年11月30日 |
外れるのは「令和9年の年1回の中間申告」だけです。 暦年が課税期間の個人事業者の場合、6か月の中間申告対象期間は1月1日に始まるので(消費税法第42条第6項)、令和9年のその1回だけが4月1日より前に始まります。中間納付の期限は、その期間の末日の翌日から2か月以内です。
個人事業者がすべて外れるわけではありません。 限定しているのは事業者の種類ではなく、期間が始まる日だからです。年3回・年11回の個人事業者なら、令和9年でも4月以後に始まる回は対象になります。令和10年の中間申告対象期間は令和10年1月1日に始まるので、年1回でも対象です。
「零と記載できる」のは、中間申告書を出したときだけです
この特例は、黙っていて効くものではありません。大綱(案)は注で、こう続けています。
(注2)上記の措置を適用する場合には、消費税の仮決算による中間申告書に、上記の措置に基づき計算した中間申告税額(消費税額及び地方消費税額に区分した金額を含む。)を記載して提出することとする。
書いて、出す必要があります。出さなかった場合どうなるかは、消費税法第44条が定めています。中間申告書を提出期限までに出さなかったときは、前年の実績で計算した中間申告書の提出があったものとみなされます。 国税庁も「直前の課税期間の実績により計算した消費税額が直ちに確定することになります」「仮決算による中間申告書を期限後に提出することはできません」と書いています(No.6609)。
つまり、特例の対象になる期間であっても、何もしなければ前年の実績どおりの額が確定します。 上の設例の3月決算の法人でいえば、令和9年11月30日までに仮決算の中間申告書を出さなければ、400,000円が確定します。
なお、大綱(案)の注1は、この計算を「上記2の簡易課税制度等の特例の適用があるものとして」行えるとしています。簡易課税の事業者も、飲食料品の部分については売上税額と同額を引いた前提で計算し直せます。
その年の実際の税額は還付です。この設例の個人事業者は、1月から3月までが8%、4月から12月までが1%で(売上は月ごとに均等としました)、令和9年の税額は1,825,000円の還付になります。それでも8月31日には400,000円を納め、戻るのは確定申告のときです。個人事業者の消費税の確定申告期限は翌年3月31日なので(国税庁No.6137)、7か月のあいだ手元を離れます。 そのときの還付額は、中間納付分を足して2,225,000円になります。
3月決算の法人のほうは、課税期間の全部が1%になるので、税額は2,700,000円の還付です。中間納付は零と書けるので、先に納める分もありません。
そして2年後、税率が8%に戻る年には逆が起きます。大綱(案)は令和11年4月1日以後に開始する中間申告対象期間について、特例税率が適用されないものとした場合で計算し直せるとしています。戻る年は、前年の実績で計算すると中間納付が少なすぎるからです。
請求書と値札
請求書の書き方については、大綱(案)に注書きがあります。
上記の特例対象課税資産の譲渡を行い、又は特例対象課税資産の譲渡を受けた場合における適格請求書、仕入明細書その他の書類の「適用税率」の欄には特例税率を、「消費税額等」の欄には特例税率に基づく消費税額等の額をそれぞれ記載するものとする。
つまり、インボイスの様式そのものは変わりません。税率の欄に書く数字が増えるだけです。ただし店頭では、10%のもの、8%のまま残るもの(週2回以上発行される新聞の定期購読)、1%のものが並びます。
値札のほうは、総額表示の義務(消費税法第63条)が続きます。大綱(案)は、税抜価格だけの表示や「+税」だけの表示は「引き続き認められない」としたうえで、実際の税率とは別の税率に基づく税込価格を表示してよい期間を置きました。
| 表示してよい価格 | 期間 | その期間の実際の税率 |
|---|---|---|
| 8%に基づく税込価格 | 2027年4月1日〜5月31日 | 1% |
| 8%に基づく税込価格 | 2029年2月1日〜3月31日 | 1% |
| 1%に基づく税込価格 | 2027年2月1日〜3月31日 | 8% |
| 1%に基づく税込価格 | 2029年4月1日〜5月31日 | 8% |
合計8か月のあいだ、値札とレジの金額が合わないことが起こり得ます。 ただし条件があり、大綱(案)は「総額表示義務に直ちに対応することが困難な事情がある場合に限り」、かつ「その表示する特例表示価格…が本来表示すべき税込価格であると誤認されないための措置を講じている場合」としています。買う側から見た話は食料品の消費税1%、何が対象で何が対象外かにも書きました。
準備と支援について書かれていること
大綱(案)の注には、レジについての記述があります。
消費税率の臨時的な引下げの円滑な実施に向けたスマートレジシステムへの移行やレジシステムの改修を行う中小企業等に対する支援を行うとともに、緊急時における消費税率の変更に柔軟に対応できるシステムの普及促進を図る。
また、本則課税へ移るときの相談や費用についても書かれています。
簡易課税事業者・免税事業者である農林漁業者、食品事業者、外食事業者が本則課税事業者に移行する際の相談対応や、税理士費用等の経費に対する支援を行う。
外食については、1%にならない側に残るため別の記述があります。
特に、外食事業者については、テイクアウト等の多角化の支援を講ずるなど、外食と中食・内食の税率差による影響の及ぶ業態などを見極めた上で、的確な支援を講ずる。
いずれも「支援を行う」までで、金額も方法も書かれていません。大綱(案)は「関係府省庁が連携し、事業者の実情を確認しつつ、予算編成過程において支援内容を具体化する」としています。
先に払ってしまった分は、引き下げの対象外です
大綱(案)は、2つの取引を1%の対象から外しています。
(1)令和9年1月1日前に締結した定期供給契約(不特定かつ多数の者に定期的に継続して供給する契約をいい、特例税率を前提とするものを除く。)に基づき同年4月1日前に対価の領収をしている同日以後に行われる飲食料品の譲渡(当該対価を領収している部分に限る。)
(2)通信販売の方法により令和9年1月1日前にその販売条件の提示(特例税率を前提とするものを除く。)が行われ同年4月1日前に申込みを受けた同日以後に行われる飲食料品の譲渡
理由も書かれています。「特例税率を反映した契約変更等が困難な事例が生じること等が想定される」ためです。定期宅配やカタログ通販を扱う事業者は、この線引きで売上を分けることになります。
【2026年9月20日 追記】大綱は閣議決定されました。事業者向けの手続は一字も動いていません
2026年9月15日、この記事が「大綱(案)」と呼んできた文書が閣議決定されました。 表題から「(案)」が取れ、1ページ目の右に「令和8年9 月15 日 閣議決定」が入っています。本文で「大綱(案)」と書いているのは、その前日まで最新だった9月11日版のことです。
閣議決定版と9月11日版を全文で抽出して文字単位で突き合わせました。 この記事が扱う第二(飲食料品に係る消費税率の特例と、その所要の措置)で動いたのは1か所だけです。
| この記事が引いた定め | 閣議決定版 |
|---|---|
| 届出の期限を課税期間の末日まで後ろ倒し/簡易課税の2年縛りを外す(第二 二1) | 同じ文言 |
| 簡易課税の特例=仕入控除税額を売上税額と同額にする(第二 二2) | 同じ文言 |
| 中間申告税額に「零」と記載できる(第二 二3) | (1)(2)と(注1)(注2)まで同じ文言 |
| 総額表示の特例(前後2か月ずつ、合計8か月)(第二 二4) | 期間も税率も同じ |
| 農林漁業者への給付・資金繰り支援(第二 三) | 同じ文言 |
| 地方消費税の減収額の補塡(第二 二5) | 末尾の「(地方と協議中)」が消えた |
消えた「(地方と協議中)」は、大綱全体で7か所ありました。そのうち第二にあったのはこの1か所だけで、残る6か所は給付(就業者負担軽減支援金)側です。第二 二5は、こういう定めです。
令和9年度及び令和10 年度の飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げによる地方消費税の減収額は、全額を地方特例交付金により補塡するとともに、各年度において必要な地方交付税総額を適切に確保する。
国と地方のあいだで減収をどう埋めるかという話で、事業者が出す届出にも、納める税額にも関わりません。 事業者の手続に関わる第二 二1から4までと第二 三は、句読点まで同じです。
法律は、まだありません
閣議決定は政府の方針を決めたものであって、税率を変えるのは法律です。 2026年9月20日時点で、その法律はまだありません。
- 財務省「これまでに決定した消費税に関する法律等」に載っている最も新しい項目は、いまも令和元年10月1日(消費税率10%への引上げ/消費税軽減税率制度の導入)です
- 衆議院の議案一覧で最新の国会は**第221回国会(特別会)**ですが、内閣提出法律案にも議員提出法律案にも、飲食料品の消費税率に関する法律案はありません
- 国税庁からこの特例についてのQ&Aも通達も出ていません
大綱自身は「必要な法制上の措置等を可及的速やかに講ずるため」と書いており、内閣官房のページもこの大綱を「法案提出に向けて、政府として大綱を定めたもの」と説明しています。つまり、この記事に書いた届出の期限も、簡易課税の特例も、中間申告の「零」も、いまの時点ではまだ根拠となる条文がありません。
あなたの数字で確かめる手順
① 直前の課税期間の申告書で、いまどの方式かを確認する
申告書の付表を見れば、一般課税か簡易課税か、2割特例かが分かります。統計では、納税申告の53.2%(個人事業者では74.5%)が後者です。**2割特例で申告していた個人事業者は、令和9年分からは使えません。**一般課税・簡易課税・3割特例のどれにするかを、ここで決めることになります。
② 飲食料品の売上と、10%で払っている仕入れを分ける
売上のうち軽減税率の対象になっている飲食料品がいくらか。仕入れのうち10%のものがいくらか。この2つだけで足ります。
③ 1%で計算し直す
飲食料品の税抜売上 × 1% から、10%対象の課税仕入れ × 10% を引きます。マイナスになれば、本則課税なら還付になる金額です。簡易課税のままなら、そのマイナスの分は戻りません。
④ 中間申告の有無を確認する
直前の課税期間の確定消費税額(国税だけ)が48万円を超えていれば、中間申告があります。大綱(案)のとおりになっても、計算し直せるのは令和9年4月1日以後に始まる中間申告対象期間だけです。暦年が課税期間の個人事業者で年1回の場合、令和9年の1回は1月1日に始まるので対象外になります。そして対象になる回でも、仮決算による中間申告書を期限までに出さなければ、前年の実績どおりの額が確定します(消費税法第44条)。
⑤ 決める期限を控える
大綱(案)のとおりになれば、個人事業者は令和9年12月31日まで待てます。ただし出さなければ変わりません。
まとめ
- 消費税の納税申告4,304,438件のうち、簡易課税と2割特例が2,290,258件(53.2%)。個人事業者では74.5%が仕入れの実額を使っていない。ただしこの分母は納税申告で、別に還付申告が306,017件ある。両方を足した4,610,455件で割ると49.7%(個人事業者では71.4%)
- その2割特例は、令和8年9月30日を含む課税期間で終わる。 暦年が課税期間の個人事業者なら令和8年分が最後で、1,048,562件のこの枠は1%が始まる令和9年4月には残っていない。令和9年分・令和10年分は、一般課税・簡易課税・3割特例から選び直すことになる
- 引き下げで下がるのは売上側の税率だけで、仕入れは10%のまま。食料品を売る事業者の多くは、納める側から戻してもらう側に変わる
- 暦年を課税期間とする個人事業者で、課税期間の全部が1%になるのは令和10年だけ。 令和9年は1月から3月までが8%のままで、効果は部分的にしか出ない
- 戻してもらえるのは本則課税だけ。設例(税抜売上15,000,000円の農業者)の令和10年では、本則課税なら810,000円の還付、簡易課税なら納付0円で還付なし。同じ設例の令和9年は、還付547,500円/簡易課税なら60,000円の納付
- 免税事業者は還付の対象外。設例(税抜売上8,000,000円)では、令和10年で8%と1%の差が560,000円。課税事業者を選べば432,000円が戻るが、2年間は免税に戻れず、戻った令和11年の1月から3月までは1%なのに還付を受けられない
- 通常は課税期間の初日の前日までに届出が必要だが、大綱(案)は課税期間の末日までに後ろ倒しし、簡易課税の2年縛りも外すとしている。個人事業者なら令和9年12月31日
- 中間申告は直前の課税期間の実績で計算される。大綱(案)は「零」と書けるとしたが、対象は令和9年4月1日以後に開始する中間申告対象期間だけ。暦年が課税期間の個人事業者は、令和9年の年1回の回だけが外れる。設例(税抜売上50,000,000円)では、1,825,000円の還付になる年に400,000円を先に納めることになる
- その「零」は、仮決算による中間申告書を出して初めて成立する。 出さなければ前年の実績で計算した中間申告書の提出があったものとみなされ(消費税法第44条)、その額が確定する。期限後に仮決算の中間申告書を出すことはできない
- 値札は総額表示のまま。ただし切り替えの前後、合計8か月は実際と別の税率に基づく表示が認められる
- 大綱は2026年(令和8年)9月15日に閣議決定されました。 この記事が引用している9月11日版(案)と全文で突き合わせると、第二で動いたのは二5(地方消費税の減収の補塡)の末尾から「(地方と協議中)」が消えた1か所だけで、事業者の手続に関わる第二 二1から4までと第二 三は一字も変わっていません
- それでも、2026年9月20日時点で根拠となる法律はまだありません。 財務省「これまでに決定した消費税に関する法律等」の最新項目は令和元年10月1日のままで、衆議院の議案一覧(最新は第221回国会)にも飲食料品の消費税率に関する法律案はありません。国税庁のQ&A・通達も出ていません